モーニング娘。「Do it Now!」

2002年の7.31ショックを覚えているだろうか。後藤真希保田圭モーニング娘。脱退、飯田、矢口、加護のタンポポ脱退、ミニモニ。では矢口脱退、そして平家みちよハロプロ脱退。このときのモーオタの衝撃は計り知れないほどだった。

このテロのような人事と同時期にリリースされたこの曲は、「LOVEマシーン」、「ちょこっとLOVE」、「ラブレボリューション21」のようにハイテンポで陽気な曲ではない、いわゆる従来の売れ線のシングルからはかなりかけ離れた印象を受けた。当時はコンサートでは絶対にハジけられない感じでちょっと暗いバラードだなあ、ぐらいの気持ちしか抱けなかった。

そして二年が過ぎ、俺はモーオタから足を洗ったのだが、ある機会に「ベスト・モーニング娘。2」を手に入れて改めて聴き直した。そして今更になってこの曲の素晴らしさと厳しさに触れた。

俺は当時フリーターとしてフラフラしていたのだが、今年の冬にサラリーマンになり身も心も削りできる限りの仕事を達成させたつもりだったが、翌月の給料明細を見たときに唖然とした。年商換算で億単位の成果物を作ったにもかかわらず、体調を壊して休んだ分の給料がばさりとカットされた。

自分のやってきたことが評価されない、俺のやってきたことは何だったのだろうと精神的に落ち込んだ。けれども今までフラフラしていた分「ふつう」のサラリーマンという肩書きは捨てたくなかった。そんなジレンマを抱えて何をどう考えても袋小路に陥り、退職願を書き自殺を図った。

辛うじて生きていたが、自分自身が評価されなかったことに対して不満を抱き続けていた。もっと他人に評価してもらいたい、「ふつう」になりたい、ありふれた人間になりたいと思っていたときにこの曲を聴いた。

どんな未来が訪れても それがかなり普通でも

「ふつう」を求めていた俺にとっては、この曲のフレーズが強く印象に残った。通常の歌謡曲ではここまで残酷な歌詞はないと思った。ありふれたポップスの歌詞では「未来には明るい希望があるんだ、だから頑張ろう」とか逆に「私の未来は暗いから、死んでしまいたい」なんて陳腐なフレーズが散りばめられているような印象を受けた。

しかし、このフレーズでは残酷にも将来が「ふつう」かもしれないと綴っている。幸せに満ちた明るい未来だなんて保証は一切しない、でも明日に向かっていくことを覚悟しているのだ。どんな未来が待ち構えているかは分からない、俺には「ふつう」になる道しかないかもしれない、けれど俺にとっては「ふつう」に生きることは憧れでもあった。

そして矢継ぎ早にこんなフレーズが耳の中に飛び交ってくる。

間違ったって しょうがないでしょう
迷ったって 始まんないでしょう

覚悟するのは簡単だった
夢がそこにあったから

「ふつう」という夢を求めるためには、前に進まなければならないのだ。悩み考えるよりも、間違っていても、迷っても、何も始まらない。「ふつう」のために、前に進んでいこう、そう覚悟を決めた俺には迷いはなくなった、しがないサラリーマンとしてタイムカードを押していく、それは俺にとっての「Do It Now!」なのだ。