橘いずみ「バニラ」

かつてAMラジオでパワープレイされていた名曲「失格」のブームを経て作られたこの曲は、歌として評するよりもむしろ『叫び』と捉えた方が適切であろう。

他責に、ないしは自責にすることでしか救われない一種の思春期的な不安定さの行き場は彼女の『叫び』に象徴される。自分の心が、脆く儚いものであることを知ってしまったが故の不安定さ。

「どこを見てるの こっちを向いて 何を考えてるの 私の目を見て」と他人に頼り、傷つけることで刹那な安定を得ようとあがいても結局そこには安定はなく、どこにも行き場のない鬱屈を「本当にごめんなさい」と自分を責めることでこの不安定な心を無理にでも落ち着けようとしていた。

サビでの「ふざけんじゃない馬鹿野郎 やり直したくなんかない もう沢山 もう沢山」、追い求めた末の混沌、混乱、迷走、不安が鬱積して爆発した挙げ句の橘いずみの『叫び』。やり場のない爆発の跡にはなにが見えたのだろうか。