松任谷由実・小田和正・財津和夫「今だから」

80年代初期に制作されたコラボレーションシングル。作詞作曲したメンバーもさることながら、プロデュースに坂本龍一、ギター高中正義、ドラムス高橋幸宏、そしてベースに後藤次利と溜め息がつくほどの大物が揃った。

80年代シンセが奏でるイントロも今聴いても色あせない。曲の構成自体は通常の邦楽ポップス(A-A-B-サビ)と変わらないが、Bメロからサビに持って行くときの一瞬の力の抜き、そしてサビでの強調とこの曲の昂揚にはっとさせられる。

愛し合っていた二人が、どんなに語り合っても、抱き寄せても空しく、「投げつけた 寂しさを受け止められずに そのままそこから 離れていったね」とありふれた心のすれ違いをストレートにサビで叩きつけていたが、時を経てもう戻らない追憶の恋を「今だから」振り返り、ようやく分かり合い、そこで戻らない瞬間を皮肉にも受け止める。

そして「それぞれの」明日に向かっていく二人。あのときの涙を、季節を、二人を包んだ全てを愛おしく思うまでの戻れない心変わりを、リリックに詞し綴った三者に言葉の力を改めて知らされた。

松任谷独特の恋愛という現実に近い詩声、小田の透明感があるけれどはっきりと歌詞にあうだけの力を持つ歌声が絡み合って、財津のハーモニーがそっと支えている。

著作権やレコード会社のしがらみもあるだろうが、これほどの珠玉曲が再び世に再び出ないのは、日本の歌謡ポップスの損失ではないだろうか。少しでも多くの人たちにこの曲を知って欲しい。そして受け止めて欲しい。