キリンジ「冬のオルガ」

愚かしくも楽しかった大学生活に別れを告げ、新卒で大手のソフトウエア会社に就職、順風満帆な生活だった。

そこでは技術的に優秀な先輩がゴロゴロといたので、俺も負けてなるかとばかりに仕事をこなしてきた。終電で帰ったときは早く帰れたなあ、なんて考えていた。無謀に頑張って頑張って働いていた。プロジェクトを達成させ、少しでも認められたくて。

そうやって無理をしたツケがきた。俺にとっては難しい仕事を先輩からアサインされた。開発サイクルすらも分かっていないにもかかわらず、どうすればプロジェクトが円滑にいくような開発環境を提供できるか、袋小路の中悩んで悩み抜いた。認められたい、そのためにはどんな仕事でもやらなくては。

そうしているうちに何も考えられなくなり、煙草をふかしうなだれている時期が続いた。死にたい、死にたい、いなくなりたい。気づいたら会社から失踪して、真昼の各駅電車に乗り込んでいた。インターネットで調べた情報を頼りに精神科へと駆け込んだ。

電車の中では少しでも自分を楽しい状況に追いやらなければと、CDウォークマンキリンジのファーストアルバムに収録された「冬のオルガ」をリピートで聞き続けた。今は楽しいんだ、好きな曲を聴いているんだから。そう自分をなだめていった。

何度聞いても歌詞の意味は分からなかったが、意味なんて必要はない、少しでも楽になりたかった、好きな音楽を聴いてこの場をやり過ごしたかったのだ。俺は歌に一縷の救いを求めていたのだ。